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インタビュー

俺の映画館〜俺流テーマで新旧映画を2本立てでレコメンド〜

2015年07月01日

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ぼんやりと輝くネオンサインの下をくぐり、無人のロビーを抜けると、いかにも重厚そうな鉄の扉がある。錆び付いた取っ手を掴んで扉を押し開けば、ぽつんと深紅のソファがひとつ。そう、ここは「俺の映画館」。俺流のテーマを設けて、レンタルが始まったばかりの新作映画を中心にお届けしている。俺的に「関連性あり」と睨んだ旧作も上映して、めくるめく映画の迷宮に迷い込んでもらおうという寸法だ。今回のテーマは、「男と女の“いびつ”なカンケイ」。見る者の価値観を揺るがしかねない衝撃作ぞろいだぜ。

おっと、上映開始の合図だ。あなたのためだけに用意した特等席に着いてくれよな。

  • 【今回の館主】
    久野剛士/ライター・編集者。立教大学大学院にて現代心理学研究科・映像身体学を専攻し、日本映画を中心とした映画論を学ぶ。「映画は劇場で観るに限る!」をモットーに、年間100本以上の作品を劇場で鑑賞。現在は「月刊スカパー!」(ぴあ)などの編集に携わる。好きな映画は「皆殺しの天使」「ハッスル&フロウ」など。

プログラムⅠ 男女のカンケイの脆さを知る昼の部

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まず上映するのは、現代映画の最高峰に君臨する巨匠、クリント・イーストウッドの「アメリカン・スナイパー」(7月レンタル開始)だ。アカデミー賞では作品賞を含む6部門候補に。興行成績も「プライベート・ライアン」を抜いてアメリカで最も稼いだ戦争映画にランキングされ、全米で社会現象になったくらいだから、ご存知の方も多いだろう。

ん? イラン戦争に4度も従軍したアメリカ軍史上最高の狙撃手クリス・カイルを描いた本作は、今回のテーマと関係ないだろうって? いいや、そこが映画の見方の面白さ、千差万別の俺流よ。実はこの作品、カイル(ブラッドリー・クーパー)とその妻タヤ(シエナ・ミラー)の物語でもあるんだ。そして、戦争を通して歪んでいく夫婦のカンケイは今回のテーマそのものなのさ。

夫婦関係が歪み始める原因は、カイルが戦地で直面したあまりにも悲惨な現実だ。常に命を狙われる緊張感、次々と命を落としていく仲間たち、女・子どもの命を奪わざるを得ない良心の呵責…。あの場所にいたら、正気でいられる奴の方が正気じゃないと思えてくるくらいだ。

二人は開戦前に結婚式を挙げてな、それはそれは幸せそうな、ラブラブな夫婦だったわけよ。ところが、イランで地獄のような戦場を経験し、一時帰国した時には、すっかりカイルは別人に変わり果てているんだ。家族と時間を過ごしていても、心は戦地に置き去りにしたまま。車の運転をしていても、周囲への警戒に取り憑かれて殺気立つ。PTSD(心的外傷後ストレス障害)のリアルな描写、B・クーパーの鬼気迫る演技には俺も思わず戦慄したぜ。

どこから敵が現れるともしれないイランの街で、銃を構えて人の命を奪おうというときに、衛星電話でアメリカにいる妻と電話して愛を囁いているなんて、まさにいびつな男女のカンケイの真骨頂だろう? 戦争が人間にもたらすものは何か、夫婦の愛情すら壊してしまう戦争とは何か。戦後70年を迎える今年、じっくりと己の胸に問うてみてほしい力作だ。

次に用意したのは、’64年公開の「卍」(DVDレンタル中)だ。俺的には監督の増村保造にも目がないんだが、やっぱりこの作品は若尾(文子)さまだろう。若い女子たちには“若尾ちゃん”と親しみを込めて呼ばれているそうだが、俺的には永遠に“若尾さま”。最近じゃあ、若尾さまの特集上映も盛んで、ようやく“若尾さまフォーエヴァー!!”と声を大にして叫べる時代がきたわけだな。

谷崎潤一郎の原作も有名な「卍」は、ある三角関係の物語だ。若尾さま演じる若く、美しく、妖艶な光子、それにひと組の夫婦。まず、妻の園子(岸田今日子)が光子の美しさに取り憑かれ、レズビアンの関係に。当初、二人のカンケイを危惧していた夫の孝太郎(船越英二)も、いつしか光子の美しさの虜になっちまう。挙げ句、園子とともに光子を崇拝し始め…。こんなにいびつな男女のカンケイってないだろう? 夫婦揃って寝ている光子にとろ〜んと恍惚の眼差しを向けるシーンは、エロティシズムも倒錯性も底が知れなくて目玉が飛び出しそうになったぜ!

「アメリカン・スナイパー」と「卍」は、どちらも外的要因によって夫婦の関係が歪み始める物語と言えるな。前者は戦争、後者は絶世の美女。男女のカンケイってもんは、状況にも人間にも左右される。あるいは、遠い国の出来事にも身近な事象にも影響を受ける。つまり、男女のカンケイがいつどうやって歪み始めるかなんてわからないし、その可能性は日常にゴロゴロ転がってるってことさ。あんたも気をつけてくれよな。

  • 【DATA】
    「アメリカン・スナイパー」(2014年・アメリカ)
    監督:クリント・イーストウッド 原作:クリス・カイル/スコット・マキューアン/ジム・デフェリス 脚本:ジェイソン・ホール 出演:ブラッドリー・クーパー/シエナ・ミラー

    「卍(まんじ)」(1964年・日本)
    監督:増村保造 原作:谷崎潤一郎 脚本:新藤兼人 出演:若尾文子/岸田今日子/船越英二

プログラムⅡ 男と女のカンケイの役割を考える夜の部

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夜が更けてきたら、プログラムⅡの上映時間だ。お次は、7月にレンタルが開始されるロマン・ポランスキー監督の「毛皮のヴィーナス」だ。今回のテーマなんて、ポランスキーのためにあると言ってもいいくらいだと思わないかい?

ポランスキーは間違いなくポーランドが生んだ天才監督だよ。けど、プライベートにおける男女のいびつなカンケイも世界一だな。女優だった二番目の妻をカルト教団に惨殺されたり、未成年の女優に性的行為を働いてアメリカから追放されたり…。映画以上にスキャンダラスな映画人生を送っている。そして、「毛皮のヴィーナス」に出演しているエマニュエル・セニエは三番目の妻。劇中では彼女を脱がせまくって、ポランスキーはそれをカメラの後ろで演出している…。この時点でもう相当いびつな作品だよ。

物語はこうだ。マゾッホの古典「毛皮を着たヴィーナス」の戯曲を舞台化する演出家トマ(マチュー・アマルリック)のもとに、無名の女優ワンダ(エマニュエル・セニエ)がオーディションに訪ねてくる。この時点で、ワンダはトマに気に入られないと舞台に出演できない身分。前半はトマがワンダの行動を完全に支配している。「サドとマゾ」の語源ともなったマゾッホの原作よろしく、二人の間には支配=被支配のSM関係が生まれてくるわけだ。

この作品がより過激に面白くなるのは後半だ。オーディションが進むにつれ、逆にトマがワンダの虜になっていくんだな。マゾッホの原作への理解の深さ、見事な演技力、美貌、肢体…。トマはワンダなしに理想の舞台は完成しないと確信していく。そう、SとMの関係の逆転だ!

役柄になりきって、上から目線で男を罵倒するワンダの舞台上の姿を、客席のトマが恍惚とした表情を浮かべて見守るシーンがある。あれは一見、理想の女優を手に入れた演出家の喜びの表情にも見える。けれど、俺的な解釈だと違うな。トマは舞台上の男になりきって、罵倒されるマゾヒズム的なエクスタシーを感じているんだよ! 当然、SとMってのが成立するのに鞭なんか不要。心をじりじりイジめられると快感を覚えるんだ。M男諸君にとっては必見の作品だと断言するぜ。

「SM劇を観た後は、ほんわか映画で締めくくり」ってわけにはいかないのが「俺の映画館」。熊切和嘉監督の衝撃作「私の男」(DVDレンタル中)でとどめだ!

俺的には、熊切監督は日本映画の未来を背負って立つ逸材だと思っている。まだ40歳と若い監督だけど、2010年の「海炭市叙景」あたりからは風格すら漂ってきたね。昔はバイオレンスな作品を多く撮っていたけど、最近は落ち着きのあるオトナの時間の描写が堂に入ってきた。静寂の中でどんどんどんどん心の奥深くに分け入って、見る者の心臓を掴んで離さない……。「私の男」はそんな熊切ワールドのひとつの到達点と言ってもいいくらいだ。

震災孤児である少女・花(二階堂ふみ)を引き取った遠戚を名乗る男・淳吾(浅野忠信)。二人は北海道の雪深い田舎町で閉ざされた生活を送り始める。やがて明るみになる二人の性的な関係。そして、二人が実の親子だっという事実…。直木賞を受賞した桜庭一樹の衝撃度を、純度100%で映像化したホンモノの傑作だ。

ここに描かれている男女のカンケイがいびつなのは、性的虐待や近親相姦といった言葉じゃ表し切れないものがある。なぜなら、花は淳吾のカラダを受け入れ、ときに親子の関係も逆転してしまうからだ。淳吾が花にすがりつきながら「おかあさぁぁん」と甘えるシーンは、さすがの俺も鳥肌が立ったぜ。

「毛皮のヴィーナス」と「私の男」を観ると、男と女にはなんらかの役割が与えられているってことを思い知らされる。強者と弱者、サドとマゾ、与える者と奪う者、甘える者と受け入れる者…そのカンケイが逆転したとき、男と女のカンケイが歪みを垣間見せる。もし、あなたにパートナーがいたら、相手と自分の役割を考えてみるのも一興だな。それを逆転させたら…いびつなカンケイも悪いもんじゃないって思うかもしれないぜ。

  • 【DATA】
    「毛皮のヴィーナス」(2013年・フランス)
    監督・脚本:ロマン・ポランスキー 原作:マゾッホ 原作戯曲・脚本:デヴィッド・アイヴス 出演:エマニュエル・セニエ/マチュー・アマルリック

    「私の男」(2014年・日本)
    監督:熊切和嘉 原作:桜庭一樹 脚本:宇治田隆史 出演:浅野忠信/二階堂ふみ/モロ師岡

(text: 久野剛士/KWC)

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2017/07/03
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